コンサルティング物語

コンサルティング物語
「人財の育成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

一緒に夢を実現する人財を育てる
~企業文化変革にコンピテンシーを活用する~

G社の事例 その1

一緒に夢を実現できる人財を育てたい

相談に来られたのは、人財派遣会社G社の社長であった。G社では、前年度より、バランス・スコアカードの考え方を導入しており、経営ビジョンを社長方針として発表し、部門ごとに部門戦略を策定するプロセスが構築されていた。G社の社長は、バランス・スコアカードを活用して、経営ビジョンを実現していくためには、「一緒に夢を実現できる人財の育成」が不可欠と考えていた。

(コンサル)
「一緒に夢を実現できる人財」とは、どのような人財をイメージされていますか。
(社長)
まずは、夢を一緒に語り合える人財だろう。そのためには、夢を共有していないとだめでしょう。さらに、今、バランス・スコアカードを導入しているので、夢を具現化するバランス・スコアカードの目標を達成できる人財でないと、いつまで経っても、ゴールにはたどり着けない。
(コンサル)
社長は、「コンピテンシー」という言葉を聞いたことがありますか。
(社長)
いや聞いたことがないが、それは、人財育成の新しい考え方ですか?
(コンサル)
最近、注目されている考え方で、日本語で解説すると「成果に結びつく、継続して安定的に発揮される発揮能力」を言います。つまり、一つは、「成果に結びつく」ですから、経営ビジョンやバランス・スコアカードの実現に結びつく能力、二つは、「継続して安定的に」ですから、仕事を進めるに当たって安定的に発揮されている行動、たまたま行った行動はコンピテンシーを測定する場合には、評価の対象とならない、また、三つは、「発揮能力」ですから、あくまでも発揮されている行動が評価の対象であり、潜在的な能力は評価の対象にならない、ということです。
(社長)
もう少し詳しく教えてほしい。
(コンサル)
例えば、営業マンが企画書を持って、お客様に営業活動を行う場面をイメージしてください。企画書を持っていく営業マンの成果は何ですか。
(社長)
そりゃ、受注することに決まっているよ。
(コンサル)
これは、愚問でした。それでは、受注するためのコンピテンシーを考えてみましょう。御社の場合、良い企画書を作るポイントは何ですか
(社長)
当然、お客様のニーズを把握することだろう。ニーズに合わない企画書を作っても受注には結びつかない。
(コンサル)
そうですね。待っていても、お客様情報は手に入りませんから、お客様のニーズを把握する行動を起こします。このような行動を「顧客理解」と呼びましょう。次に、お客様ニーズに基づいて、良い企画書を作るために、過去の成功事例など情報を集めますね。このような行動を「情報収集活用」と呼びます。さらに、見やすい企画書としてまとめる。このような行動を「概念思考」と呼びます。そして、お客様のところでプレゼンテーションを行う「対人影響力」や受注に向けてお客様の反応に対応しながら目標を達成する「達成志向」といったコンピテンシーが発揮されて、受注に結びつくのです。
(社長)
なるほど、成果を上げるということは、いくつかのコンピテンシーが活用された結果として成果があがる、と考えるわけだ。
(コンサル)
流石ですね。これだけの事例で、人財マネジメントの考え方を把握されるとは、社長は、非常に「概念思考」の強い方ですね。
(社長)
では、コンピテンシーの項目をどのタイミングで、どのように抽出するのか
(コンサル)
コンピテンシーの抽出方法は、大きく3つに分かれます。現在の業績に着目する場合は、複数の好業績者の行動から、抽出しています。二つ目は、経営ビジョンに基づいて、将来の役割・責任を果たすための必要な行動から、抽出します。三つ目は、あるべき企業文化の観点から、価値観を具現化した行動として抽出します。社長は、一緒に夢を語れる人財を育成したいわけだから、あるべき企業文化から抽出されてはいかがでしょうか
(社長)
私も、そう思う。

いよいよ、G社で人財マネジメントプロジェクトチームが発足しました。プロジェクトメンバーに対して、レクチャーを行った後、あるべき企業文化の抽出です。
あるべき企業文化の抽出は、次回ご報告します。

G社の事例 その2

メチャおもろいやないか

「企業文化のあるべき姿」を整理したときの社長のワクワク感です。「こんな会社を創ったら、メチャおもろいやないか」「はよ、つくろうや」。経営者の方は、本当に気が早い。自分がイメージできると、居ても立ってもいられないのです。コンサルタントのお尻にも火をつける「企業文化のあるべき姿」は、どのようにして、まとめられたのでしょうか。

人財マネジメントのレクチャーのあと

(コンサル)
いよいよ次回は、あるべき企業文化を抽出します。
(社長)
何か準備しておくものは、ありますか。
(コンサル)
ここにいるメンバー一人ひとりが、企業文化のあるべき姿「こんな企業文化の会社にしたい」という期待を、ポストイットに、一人当たり15個以上抽出して、準備してきてください。皆さんの期待を基に、あるべき姿をまとめます。
(社長)
わかりました。ところで、今日のレクチャーを聞くと、もう1人、メンバーに加えたい人財がいるのだが・・・
(コンサル)
どんな人財ですか。
(社長)
まだ、若いのだが、非常に、前向きで、発想力の豊かな人財と思ってください
(コンサル)
それは、好都合です。若い人の考えをドンドン発言してもらいましょう。

人財マネジメント検討会

(コンサル)
このプロジェクトは、御社の求める人財の発揮能力を抽出するプロジェクトです。従って、参加メンバーが上下関係を意識しないで、自由に議論することが重要です。そこで、フラットな関係で議論する場をつくるために、検討会の最初と終わりに挨拶をします。最初のあいさつは「よろしくお願いします」。言いにくいことでも、自由に意見を言ってください、よろしくお願いします、という意味です。また、最後には「ありがとうございます」。言いにくいことにも関わらず、良く言っていただきました、ありがとうございます、という意味です。この「よろしくお願いします」と「ありがとうございます」の言葉の間は、フラットな立場での議論をお願いします。社長、よろしいでしょうか。皆さんも、「社長がおっしゃるから、賛成しておこう」なんてダメですよ。
(社長)
フラットな関係での会議は、いままでになかった考え方だ。よし、それでいこう。この検討会は、お互いに発言することによって、価値を生む会ということだ。発言しないということは、価値を生んでいない、という共通認識でいこう。
(コンサル)
社長もよろしくお願いします
(社長)
先生の言いたいことは、私に、しゃべりすぎるな、ということだろう。
(コンサル)
これ以上は、言う必要はないようですね。では、準備していただいたカードを使って、あるべき企業文化を検討しましょう。まず、
  1. 1人の方が自分のカードを読み上げて、自分の手元に置きます。他のメンバーは、自分のカードの中から、発表したカードの内容と似ていると思うカードを、置かれたカードの周りに置いていきます。これを1人の人のカードがなくなるまで行います。
  2. 1人の人のカードがなくなれば、次の人が同じように、カードを読み上げて、他のメンバーは似ているカードを置いていきます。そして、全員のカードがなくなるまで続けます。
  3. グループができたら、グループとしてまとめたキーワードを考えて、表題としてください。さらに、
  4. 全員でカードを見直しながら、グループの数を10以内になるようにまとめます。次に、
  5. 集約したグループごとに、新たに表題をつけて下さい。その時、カードの言葉をまとめるのではなく、このカードグループの言いたいことは、言い換えると、我々が求める企業文化は、「○○という企業文化なんだ」、というように本質的な言葉を発見してください。
では、はじめましょう。

<略>

(コンサル)
グループが20以上できていますね。さらに、グループを集約して10以内にしてください。我々が求める企業文化は、どのような企業文化でしょうか。
(メンバー1)
「みんなで盛り上がる」「型にはまらない」「みんなで作る」・・・
(メンバー2)
「それはイベント好きだろう」
(メンバー3)
「効率的」「仕事が早い」「先を読んで仕事をする」・・・
(メンバー4)
「それって、世界最速じゃないの」
(コンサル)
いいですね。どんどん発想を広げてください。もう、でなくなるまで、発想を広げて、そこから、本質的な言葉に絞り込みましょう。

G社では、社員中心に検討を重ねて、最終的には、8つの「あるべき企業文化」のイメージに集約したのです。このとき、社長は社員の自社に対する想いの強さ、社員の発想の豊かさ、そして、何よりも自由闊達に検討することによる、価値の増幅(どんどん、新しいアイデアやイメージが具体化すること)を体感したのでした。

次回は、「あるべき企業文化」を実現する、コア・コンピテンシーの抽出について、ご報告します。

G社の事例 その3

我社の社員像が見えてきた。

「あるべき企業文化」が醸成された時、社員は、どのような行動を発揮しているのでしょうか。「あるべき企業文化」を実現する、社員の行動特性を検討する中から、社長は、「あるべき社員像」をイメージされたようです。

(コンサル)
ここに標準的なコンピテンシーの一覧表があります。エクセルの表を使って、コアとなるコンピテンシーを抽出します。前回抽出した「あるべき企業文化」の8項目を縦軸に並べてください。また、コンピテンシーの一覧表を横軸に並べてください。メンバーの方々は、「あるべき企業文化」の項目ごとに、実現するために重要と考えられるコンピテンシーを選んでください。
(社長)
項目ごとに、選ぶ数に制限があるのか。
(コンサル)
特に、制限を設けていません。自分が、「あるべき企業文化」を実現するために、重要だと思うものを選んでください。

<略>

(コンサル)
では、発表していただきましょう。一番若い方から、社長は最後にお願いします。
(社長)
なぜ、私が最後にならないといけないのか。
(コンサル)
社長が、先に発表すると、社員の方は、社長の意見に引きずられませんか。
(社長)
最後まで、待てるだろうか。
(コンサル)
だから、待ってほしいのです。(笑)

<略>

こうして、社長が最後に発表して、全員の発表が終わりました。

(コンサル)
コア・コンピテンシーですから、10項目程度にまとめたいと思いますが、とくに10項目にこだわる必要はありません。10項目を目安と考えてもらえば結構です。また、コンピテンシーの表題も、御社の使いやすい言葉に変えてください。 では、シートをよく見てください。皆さんが大切だと認識しているコンピテンシーには、評価が集中しているようです。ただ、コア・コンピテンシーを抽出するにあたって、多数決だと、一目瞭然ですが、そうはいかないでしょう。10位以下でも、外してはいけないコンピテンシーは、ありませんか。敗者復活から議論を進めて、10項目程度のコンピテンシーに合意できることを目指しましょう。
(メンバー1)
私は、管理部の立場ですが、今のままの項目では、「それいけ、ドンドン」項目ばかりです。キチンとルールを守ることも大切だと思います。ですから、「徹底確認」の項目は、外したくありません。
(社長)
さすが、管理部。それって、誰に対して言っているのかな。(笑)
(メンバー1)
誰というつもりはありませんが、強いて言うと、◎◎部でしょうね。
(社長)
結局、ハッキリ言っているではないか。(笑)
(メンバー2)
私は、「対人理解」が重要だと思います。相手を思いやる姿勢があって、コミュニケーションが成り立つと思います。
(メンバー3)
私も賛成です。我社では、相手を思いやる姿勢を大切にして、名前も「対人理解」ではなく、「思いやり性向」にしては、どうでしょうか。
(コンサル)
いい意見ですね。どんどん意見を出して、我社オリジナルのコンピテンシーを創りましょう。
(社長)
私は、「倫理観」を入れておきたい。「倫理観」というと、法律を守るとか、道徳心を持つことに限定されるように感じる。私は、さらに、経営理念や経営ビジョン、さらには前回抽出した「あるべき企業文化」を実現する行動を重視したい。従って、項目の名前も「価値観」に変えたいと思うが、皆はどうだろうか。

<以下略>

G社では、このような議論を繰り返し、ある項目は名前を変え、ある項目は定義そのものを我社オリジナルに変更して、10項目のコンピテンシーにまとめたのです。この議論を通じて、G社では、少しずつ「我社の社員のあるべき姿」が共有されてきたようです。

<補足>
G社では、コンピテンシーという名称が、社員に伝えにくいということから、「コンピテンシー」を「G社能力」と言い換えています。ただし、コンサルティング物語では、このまま「コンピテンシー」の名称を使って参ります。

次回は、コンピテンシーの発揮レベルのランクわけ(1~5ランク)について、ご報告します。

G社の事例 その4

1ランクが重要なポイントになる

各コンピテンシーのランクの定義づけを行い、具体的な行動事例を検討していたときの社長の気づきです。新しい企業文化に変革していくためには、社員全員がG社のありたい企業文化に基づいて、正しい行動ができるようにならなければなりません。従って、1ランクの行動の評価視点・行動事例が非常に重要となります。

(社長)
コンピテンシーごとにランクを設定するわけですが、横軸としてのランクの定義はないのでしょうか。
(コンサル)
とても、大切なことを質問していただけました。社長のおっしゃるとおりです。横軸の定義がないと、これから検討する「行動の評価の視点」、言い換えると、現在のランクと上位ランクとの差異が明確にならないですね。弊社では、ランクの定義づけの視点として、変革のレベルで考えています。具体的には、1ランクは「決められた、あるいは指示された行動をしている」、2ランクは「目的意識・問題意識を持って行動している」、3ランクは「プロセスを改善する行動をしている」、4ランクは「プロセスを革新する行動をしている」、5ランクは「他者が真似のできない独自の行動特性を発揮している」。この視点について、ランクの意味の違いを重点に、少しレクチャーを行います。

<略>

(コンサル)
私がご提案した横軸の言葉も、ランクの違いを理解しながら、G社としての言葉に変えるほうが良いでしょう。この言葉作りも今後の検討の中で決めていきましょう。
(コンサル)
では、弊社のサンプルに基づいて、コンピテンシー別に、ランクの「行動の評価視点」を検討しましょう。まず、各コンピテンシーの1ランクの「行動の評価視点」を検討して、横軸をあわせます。最も、関心のあるコンピテンシーは、どのコンピテンシーでしょうか。
(メンバー2)
私は「思いやり性向」から、検討してほしいと思います。[全員異議なし]。「思いやり性向」の1ランクの定義では、「相手の話す言葉の意味を理解している」となっていますが、これではG社らしくないと思います。前回の定義で、共感するコンピテンシーとして、コンピテンシーを診る視点を整理しましたので、ランク1では、「成果を上げたり、褒められたりした人に対して、"おめでとう"が言える、または、相手に何かをしてもらったら、"ありがとう"が言える」、という言葉に変えたほうがいいと思います。
(メンバー3)
"おめでとう"や"ありがとう"だけでよいのか。社長に怒られて、落ち込んでいるヤツに、声をかけるのも1ランクではないのか
(社長)
"オレに怒られて・・・"はないだろう。みんなが声をかけるのは、オレに怒られたときだけか
(メンバー3)
けっこう、落ち込みますので・・・(笑)
(メンバー2)
落ち込んでいるのは、なかなか言葉で表さないだろう。相手の表情や態度でわかるのは、2ランクのレベルではないか。
(メンバー4)
誰でも、意見の言える会社を目指すのであれば、新入社員であっても、状況がわかっていれば、先輩に対してでも、何か声をかけられるようになってほしい。
(社長)
そうか!1ランクの「決められた、あるいは指示された行動をしている」と言うのは、指示命令を守るとか、マニュアルを守るとか、そういう問題ではなくって、G社の企業文化の基本的な行動をしているということか。だから、先生が、コンピテンシー毎に、1から5ランクまで議論するのではなく、ランク別にそれぞれのコンピテンシーの視点を検討しようとしているのか。
(コンサル)
さすが、社長ですね。
(社長)
褒めても、何もでませんよ(笑)。みんなは、オレが褒められたのだから、拍手ぐらいせんかい。「思いやり性向」の1レベルもない連中やな(苦笑)
(コンサル)
G社のあるべき企業文化では、褒められたら、良いところに気づいて頂き、"ありがとう"ではないでしょうか。あるべき企業文化を創ることから、コンピテンシーの議論をスタートしていますので、横軸をあわせるということは、あるべき企業文化の基本的な行動を決めるということだったのです。その観点から言うと、メンバー4さんの発言がいいですね。
(メンバー4)
ありがとうございます。
(コンサル)
早速の実践、ありがとうございます(笑)。今の議論を踏まえると、評価の視点としては、「自分が把握している相手の状況や、自分に対して行ってくれた相手の行動に対して、素直に声をかけている」という表現でどうでしょうか。また、メンバー2さん、メンバー3さんの発言は、事例として記述しましょう。

<以下略>

このようにして、ランク別に行動を評価する視点と具体的な事例の検討を行っていきました。サンプルがあるとはいえ、多くの時間を費やす議論ですが、この議論を通じて、あるべき企業文化を具現化している、ランク別の人財像を共有化することが重要なポイントです。

次回は、コンピテンシーの体系表をどのようにして、人財育成に展開していくのか、人財マップと資格制度の考え方について、ご報告します。

G社の事例 その5

同じ営業マンでも、こんなにタイプが違うのか

コンサルタントは、自社オリジナルの「人財マップ」を見せて、人にはいろいろなタイプの社員がいることを説明したのです。そこで、社長は、同じ営業マンでも全くタイプの違う営業マンがいることに気づかれたのです。

(コンサル)
優秀な野球選手が、必ずしも優秀な監督になりません。一方、現役時代、あまりぱっとしなかった選手が優秀な監督になる場合があります。この違いはなぜ起こるのでしょうか。
(社長)
我社にも、営業成績が良いから、営業のマネージャーにしたのだが、チーム成績を全く上げられないマネージャーがいる。彼のノウハウを部下に伝えてくれることを期待したのだが・・・
(コンサル)
そうなんです。営業マンとして活き活きと活躍する人財、営業マネージャーとして、活き活きと活躍する人財など、同じ営業マンでも能力の発揮タイプが違うのです。この「人財マップ」を見てください。縦軸は、「組織への貢献の仕方」です。 「直接貢献人財」というのは、自ら仕組を変革、資源を調達することによって、新たな付加価値を創造する人財、「間接貢献人財」というのは、与えられた仕組・資源の中で、付加価値を最大にする人財、を言います。言い換えると、「間接貢献人財」は、損益計算書(PL)で発想する人財、「直接貢献人財」は貸借対照表(BS)で発想する人財と言うことが出来ます。
(社長)
我社がほしいのは、直接貢献人財。しかし、BSで発想できる人財なんているのだろうか。
(コンサル)
だから、育てないといけないのです。「人財マップ」の横軸は、「能力発揮のタイプ」です。「個人の知識/経験タイプ」というのは、暗黙知となっている個人の知識/経験によって、付加価値を獲得する人財、「組織活用タイプ」というのは、組織や人財を活用することによって、付加価値を獲得する人財、「専門知識活用タイプ」というのは、形式知化(明文化している、説明できる)された個人の知識/ノウハウを活用することによって、付加価値を獲得する人財、を言います。言い換えると、「個人の知識/経験タイプ」というのは、職人タイプの人財、「組織活用タイプ」というのは、マネージャータイプの人財、「専門知識活用タイプ」というのは、プロフェッショナルタイプの人財です。
(社長)
もう少し、わかりやすく言ってもらえないか。
(コンサル)
社長がおっしゃった営業マンの例で言いましょう。営業成績が良くてもマネージャーとして、能力を発揮できない営業マンは、「職人タイプ」の営業マンだと思います。営業マネージャーとしての成績より、自分の営業成績を優先しませんか。また、自分のやり方が暗黙知化されていて、部下に伝えることができないのでしょう。
(社長)
コンサルタントの先生は、彼をどこかで見ていたのではないですか。全くその通りで、「オレのやり方を見ておけ」「営業は体で覚えるものだ」と口癖のように言っています。
(コンサル)
組織の事情もあるでしょうが、今の状況では、彼には営業マンとして頑張ってもらう方が良い成果に結びつくと思います。次に、マネージャータイプの営業マンは、部下を使って、組織としての成果を優先的に考える営業マンです。最後に、プロフェッショナルタイプの営業マンは、顧客の問題解決を優先して考え、顧客の成長を通じて、結果として自社の商品の販売に結びつける、コンサルティング営業ができる営業マンなのです。この「人財マップ」の意図は、「成果に向けて、能力発揮のタイプの違う人財がいる」ということを認めて、社員一人ひとりに対して、自分にあった適切な能力発揮タイプを選択して頂き、社員のモチベーションアップと能力向上に結び付けていこうとする考え方です。
(社長)
なるほど、その人の特性を認めて、人財育成をしていこうというのか。しかし、営業を例に取ると、将来の我社を支えていくのは、プロフェッショナルタイプの営業マンとなるだろうな。
(コンサル)
社長!今おっしゃったこと、非常に大切なことなのです。会社としても、将来のプロフェッショナル営業マンを育成するためにも、将来を見据えて、どのタイプの人財が、何人必要なのかを考えて、今から人財育成をしなければならないのです。そのために、コンピテンシーを活用した能力体系を活かしていきましょう。そのためには、人財マップを資格制度に展開しなければなりません。
(社長)
資格制度に展開するとは、どういうことですか。
(コンサル)
人財のタイプで、左中の「間接貢献で、個性に依存するスキル」(オペレーション人財)は、会社から与えられた資源に基づいて、個人の能力で仕事をする人財です。言い換えると、マニュアルや上司の指示に基づいて業務を行う人財、あるいは定型的な業務を行う人財と言えます。従って、資格を設定する場合には、一般社員の資格と考えます。一方、左上の「直接貢献で、個性に依存するスキル」(マイスター人財)は、方針の範囲内で自由に活動する人財(自分の裁量で、自分の資源を有効に活用する)のレベルから、存在することが価値であるようなカリスマ社員のレベルまで、幅広いレベルの人財が存在します。従って、資格を設定する場合には、職人タイプの人財は、中級資格から上級資格まで、幅広く分布させます。
(社長)
すると、大きくは3タイプ・3段階の資格制度になるということですか。我社の実態に合わせるためには、もう少し、細分化したほうが良いかもしれません。
(コンサル)
もちろん、区分を細分化することは可能ですが、社員のタイプによる資格制度の基本原則を押さえた上で、細分化することが重要だと思います。

このようにして、G社では、最終的に3タイプ、6段階の資格体系を作り上げたのです。G社の社長は、能力の発揮の仕方には3タイプあると、理解することによって、今まで悩んでいたことが氷解したようでした。早速、営業マネージャーを一般の営業マンに戻し、自分の力を思う存分に発揮してもらえるようにしたのです。

【備考】
後で聞いた話では、この営業マンは、営業マネージャーとしての能力に限界を感じていて、月末で辞表をだすつもりだったようです。本当に危機一髪でした。

次回は、資格変更(資格アップあるいは資格ダウン)の基準をどのように決めるのか、資格制度とコンピテンシーの関係について、お話します。

G社の事例 その6

資格変更もコンピテンシーレベルで決めるのか

3タイプ6段階の資格の枠組みを決めると 次の問題が起こってきました。それは、資格の変更の基準をどのように設定するか、という問題です。この基準なしでは、資格制度そのものが機能しなくなるからです。 新しい制度で社員のモチベーションがあがるのか、資格変更が社員の上昇志向へのインセンティブになるのか、経営者の期待と不安のなか 検討会がはじまりました。

(コンサル)
まず、我社のオペレーション人財の標準的なコンピテンシーを抽出します。我社で、日常的な業務を任されていている人財は誰でしょうか。2名の候補者を上げてもらうと検討しやすいです。多少、能力的な差異があってもかまいません。
(社長)
それは、XさんとYさんだろう。
(コンサル)
では、Xさんについて。日常的な行動から、コンピテンシーのレベルを考えてみましょう。まず、「概念思考性向」について、どのレベルとご判断されますか。
(社長)
自分の発言に対して、事実に基づく背景を説明できるから、2のレベルと判断してもよいのではないか。
(コンサル)
次に、Yさんについて、どのように判断されますか。
(社長)
Yさんは、自分の発言に対する根拠が希薄だな。自分の経験から推測してしゃべっている。1のレベルだな。
(コンサル)
レベルが違いましたね。差異の理由は、なんでしょうか。お互いに理解を深めましょう。

<このようにして、XさんとYさんの発揮している行動特性、さらに、今後、あるべき企業文化を実現するために、強化するべき行動特性を加味して、標準的な社員(上級社員)の入学要件としてのコンピテンシーレベルを設定します>

(コンサル)
次に、「職人タイプ」「起業家タイプ」「プロフェッショナルタイプ」それぞれのタイプの人財の特徴と能力について考えて見ましょう。
(社長)
「職人気質の営業マン」というのは、どのような能力を発揮しているのか。
(コンサル)
G社の例で考えてみましょう。営業マネージャーに抜擢していた営業マンは、普段、どのような行動をしていましたか。
(社長)
とにかく、よく働く。お客様のためと思えば、24H 休日なしで働いている。それと、自分の成績に対する執着心は、人一倍だろう。彼の欠点は、結構 自分で合うお客様と合わないお客様を選別していて、合わないお客様とは、関係を修復できない、というより、関係を修復しようとしていない。
(コンサル)
しかし、貢献度は大きい。
(社長)
そのとおりです。どんなことがあっても 売上・利益を達成してくる。頼もしい限りです。
(コンサル)
まさに、「達成指向性」の強い方ですね。また、「自信」にも溢れています。この行動特性が、職人気質の営業マンの特徴です。では、これからの営業マン像としてあげられている、「プロフェッショナル営業マン」について考えて見ましょう。社長は、「プロフェッショナル営業マン」に、どのようなことを期待されますか。
(社長)
これからは、お客様の問題や悩みを解決する、コンサルタントのような営業マンが必要だと考えている。
(コンサル)
商売敵の誕生ですね(笑)。コンサルタントは、お客様の情報に対して、分析を加え、問題の本質を把握、適切な提案をしていかなければなりません。また、提案をしたとしても、相手が納得して動いていただかなければ、提案の価値がないですね。そうすると、我社のプロフェッショナルにおいては、「達成指向性」はもちろんですが、それ以外に「情報分析力」「概念思考性向」「対人影響力」といったコンピテンシーが重要となってきます。

<同様に、起業家タイプも分析いたしましたが、ここでは省略いたします>

(コンサル)
このポイントとなるコンピテンシーが、「職人タイプ」「起業家タイプ」「プロフェッショナルタイプ」の入学要件としてどのレベルまで必要か、明確にすることが重要です。
(社長)
なるほど、それぞれのタイプの人財を具体的にイメージすることが重要なわけだ。イメージができると、社員にも「求める人財像」を伝えやすくなる。
(コンサル)
そうです。「求める人財像」に育って頂くために、コンピテンシーのキャリアアップ(入学要件)を設計するのです。ただし、ここで検討していることは、まだまだ机上の仮説の域をでていません。実際には、それぞれの資格への入学要件を、個人個人の評価に当てはめて、検証しなければなりません。
(社長)
すると、人財マネジメントは、導入しながら 検証していくということですか。
(コンサル)
だから、会社、評価者、一般社員が一緒になって創りあげていくものなのです。人財マネジメントを構築するプロセスが、「一緒に夢を実現する人財を育てる」プロセスになりませんか。
(社長)
そうか!人財マネジメントを構築するプロセスが、「一緒に夢を実現する人財を育てる」プロセスになるのですね。また、楽しさが膨らんできました。

このようにして、資格変更の基準を整備していきました。いよいよ、「一緒に夢を実現する人財を育てる」制度として、コンピテンシーを基準とした資格制度が設計され、資格変更基準も明らかになってきました。あとは、この人財マネジメントの制度を機能させるために、正しい評価を行う仕組みを構築する取り組みが残されています。

次回は、能力評価と面接制度の考え方について、ご報告いたします。

G社の事例 その7

面接は、部下からのプレゼンテーション!?

資格変更要件が決まりました。しかし、肝心の能力レベルをどのようにして、評価、判断するのか。社長の問題意識が高まります。評価そのものに納得性がないと、人財マネジメント自体が機能しなくなるからです。

(社長)
資格変更要件を活用するためには、部下の能力を正しく評価、判断する仕組みが必要だと思うが、その仕組みをどのように構築したらよいのか、教えてもらいたい。
(コンサル)
先日、G社の「あるべき企業文化」を検討した際、企業文化の一つとして、「社員一人一人が、自らの手で、自分の夢をつかむ」文化を持つ企業にしたい と決めました。
(社長)
「自立した人財」を育てたいと思っている。
(コンサル)
G社では、お客様に「自社の人財派遣サービス」を活用して頂くために、お客様に対して、自社の「人財派遣サービスメニュー」について、プレゼンテーションをしていませんか。
(社長)
その通りです。
(コンサル)
そして、お客様が評価、納得すれば「自社の人財派遣サービス」を利用して頂ける。つまり、評価されるG社の方が、プレゼンテーションをして、評価するお客様が、納得して利用していただく。「自立した企業」の姿です。
(社長)
自立した企業と、評価とどのような関係があるのか
(コンサル)
能力評価は面接の場で行われます。社長が望まれている「自立した人財」を育成するためには、面接の場で、「自立した企業」と同様のことが行われなければなりません。
(社長)
面接の場が、「部下からのプレゼンテーションの場」ということか。
(コンサル)
そうです。面接の場で、評価を受ける方が受身的な姿勢では、「自立した人財」は育ちません。面接の場そのものが、「自立した人財」を育成する場と考えるのです。
(社長)
面接が、人財育成の場か・・・。おもしろい。それで、具体的にはどのように面接をするのか。
(コンサル)
面接は、原則毎月行います。しかし、最終的に、発揮能力のレベルを確定する面接は、年1回です。毎月の面接は、「部下からのプレゼンテーションに対して、上司がレベル評価をする」、というよりも、「部下からのプレゼンテーションに対して、上司が能力向上に向けて支援する」ための面接を行います。一般的には、コンピテンシーの項目毎に、具体的な発揮活動事例をあげて、「自分がどのレベルの能力を発揮しているのか」について、プレゼンテーションを行います。
(コンサル)
毎月、すべての項目について面接を行うのは、時間的な問題が発生するように思うが、どうだろうか。面接のための面接にならないだろうか。
(コンサル)
ご心配はもっともです。最初は、一人ひとりの部下にとって、どのコンピテンシーが重要か、上司も部下も判断がつかないために、すべてのコンピテンシーに対して面接を行うことから、多くの時間がかかるのも事実です。しかし、面接の仕組みが浸透してくると、毎月の面接では、重要項目に絞って面接を行うことが有効であることに気づきます。例えば、前月からの課題になっている、重要なコンピテンシーの項目に絞ること などです。
(社長)
しかし、今の社員に、プレゼンテーションができるだろうか。
(コンサル)
もちろん。プレゼンテーションのための訓練も必要です。しかし、部下の方からプレゼンテーションができるようになるためには、プレゼンテーションをしても、否定や批判をされない「安心の場」を作ることのほうが、もっと重要なことです。
(社長)
「安心の場」!?初めて聞く言葉だ。
(コンサル)
人はだれでも、自分の行動や意見に対して、否定や批判を恐れます。従って、上司は、部下のプレゼンテーションを途中でさえぎったり、無視をしたりしてはいけません。また、理解できない点については、部下を理解するために、キチンと質問することも重要です。「安心の場」というのは、「認められている場」のことなのです。
(社長)
面接においては、上司の役割・立ち居振る舞いが重要だと言うことか。
(コンサル)
その通りです。そのためには、上司に対して、聴く訓練を行うことが重要です。

このようにして、G社では面接制度の内容、そして面接制度で活用するシート等が決定されてきました。

次月は、このテーマの最終回、評価者訓練について、ご報告します。

G社の事例 その8

評価者訓練とは、質問の仕方と聴き方の訓練なのか

評価者訓練は、コンピテンシーの定義、さらにコンピテンシー毎・ランク毎に発揮能力を診る着眼点等 評価のバラツキを無くすための知識研修に加えて、面接時における上司の立ち居振る舞いとしての「聴く技術」「質問技術」を学びます。

(コンサル)
今回の面接のポイントは、"皆さんは、自分の部下から、発揮能力についてプレゼンテーションを受ける立場にある"ということです。皆さんも、上司に報告や相談する時、他の仕事をしながら、片手間に聴かれるとイヤですね。面接において、プレゼンテーションを聴くときには、聴くときのマナーがあります。これを「積極的傾聴法」といいます。
(コンサル)
「積極的傾聴法」には、いくつかのポイントがあります。(1) 聴く姿勢です。イスに深くかけて、イスの後ろにもたれかかって、足を組んだ状態、いわゆる高圧的な態度では、聴く態度とはいえないですね。やはり、身を乗り出して、聴いてあげることが重要です。相槌をうつ、次の話を促す(もっと聴きたい)姿勢も重要です。(2) 相手を観る視点です。相手の目を観る、表情を観る、相手の態度を観る、観ることによって、相手の本音を聴くことが大切です。(3) (以下略) 
最後に、相手の気持ちを自分の言葉で表現することも重要です。例えば、「あなたは、○○という行動をしているので、◇◇コンピテンシーは、ランク3のレベルがある、という認識ですね」というように、自分の言葉で表現することです。
(社長)
聴くということが、これほど大切なこととは、気がつかなかった。自分も、大いに反省をしなければならない。
(コンサル)
積極的に聴くことによって、相手を理解するだけではなく、相手が自ら自分の問題や解決策に気づくように導くこともできるのです。
(社長)
私やここにいる幹部社員にもできるようになるのだろうか。
(コンサル)
十分に可能です。では、相手をさらによく理解する、質問技術についてお話します。 まず、質問技術の一つ目、「拡大質問」についてです。

[一人の幹部社員に対して]

(コンサル)
あなたは、今朝、朝ごはんを食べましたか。
(Aさん)
はい、食べました。
(コンサル)
今朝、朝ごはんに 何を食べましたか。
(Aさん)
え~と、パンと牛乳とサラダです。
(コンサル)
最初の質問と後の質問、どちらが答えやすかったですか。
(Aさん)
最初の質問です。
(コンサル)
最初の質問は、「YES or NO」で答えられる質問です。これを「閉鎖質問」と言います。一方、後の質問は、「YES or NO」で答えられない質問(5W1Hを聴く質問)です。これを「拡大質問」といいます。「拡大質問」は、5W1Hを聴く質問ですから、相手に考えて頂くとともに、相手のことを深く理解することに繋がります。後で練習しますから、「拡大質問」をぜひマスターしてください。
(コンサル)
もう一つの質問技術「未来質問」です。

[一人の幹部社員に対して]

(コンサル)
あなたの部門で一番大きな問題は何ですか。
(Bさん)
派遣する優秀な人財が確保できていないことです。
(コンサル)
「派遣する優秀な人財が確保できていないこと」に対して、あなたは、どのようにしたいと考えていますか。
(Bさん)
<省略>
(コンサル)
私が、Bさんに、二つ目に質問したように、相手に対して、何をしたいか、どうなりたいのか(相手の意見や意思)を聴く質問を「未来質問」と言います。相手に考えて頂く、さらに、当事者意識を持っていただくための質問です。Bさんは優秀ですね。自分の答えをキチンと持っていらっしゃる(なぜか笑い)。
(コンサル)
では、演習をしましょう。2人一組になってください。相手に対して、今朝からの仕事の内容や行動について、拡大質問で聴いてあげてください。積極的傾聴法も忘れないようにしてください。

<省略>

(コンサル)
では、二つ目の演習です。4人一組になってください。そのうちの一人が、質問者、もう一人が回答者、後の2人はコメンテーターです。回答者は、自分の成功話、自慢話をしてください。質問者は、拡大質問を使って、回答者の深く聴いてください。質問者及びコメンテーターは、回答者の成功が、どのコンピテンシーがどのレベルで発揮されてきたか、考えてあげてください。

<省略>

(社長)
今日の研修は、非常に気づきの多い研修だった。特に、営業にとって、お客様のことを知るうえでも、大変重要な能力だろう。しかし、「聴く技術」「質問技術」をマスターすることは、並大抵ではないなあ。
(コンサル)
おっしゃるとおりです。しかし、見方を変えれば、今日学んだことは、日常のことなのです。営業はもちろん、社員全員が 日常で、学べるのです。
(社長)
要は、意識の問題だと言いたいのだろう。そこが一番難しい。よし、私から 見本を見せられるようにしよう。
(コンサル)
さすが、社長。社長が意識を持てば、社員全員が変わりますよ。

このようにして、G社では、人財マネジメントが導入されていきました。でも、本当の大変さは、これからです。人財マネジメントを定着させるまでには、地道な努力が必要です。G社も例外ではなく、今も定着させるための挑戦が続いています。そして、未来志向の人財マネジメントは、企業の戦略と共に追及するものであって、ゴールはないのです。

今回で、「一緒に夢を実現する人材を育てる」を終わります。

次回からは、少し雰囲気を変えて、「ベンチャーマインドを醸成する」と題して、私の大学での講座の様子をご報告します。