コンサルティング物語

コンサルティング物語
「価値観の醸成」

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

経営者の覚悟 -オレが責任を取る-

その1

~業績の逓減に歯止めがかからない~

今回のコンサルティング物語は、コロナ禍において経営者が革新に取り組んでいるイタリアンレストランD社の事例を取り上げます。

三大都市圏のベッドタウンE市に本社をおくD社は、70年続く老舗イタリアンレストランです。 創業は、現在の社長F氏の祖父のG氏(故人)が、戦後、GHQ相手に、洋食店を開店したことに始まります。D社は、日本人の生活スタイルの洋風化、さらに昭和40年代の高度成長期の追い風に乗り、多店舗化を進め、最盛期には10店舗にまで店舗数を増やしたのでした。

一方、創業者G氏は、息子であるH氏(現社長F氏の父親)を、本場でイタリア料理の修行を積ませたのち、後継者としてD社を任せるつもりで、再度、イタリアに留学させたのです。イタリアから帰国したH氏は、イタリアで「伝統の味、料理の品質を追究するシェフの姿勢」を学んだことから、「多店舗化は、いつか頭打ちになる。料理の質を高めることこそ重要である」と、多店舗化を志向する創業者と、経営方針について、意見の対立が見られるようになっていったのでした。

時代は、H氏が予測した通り、オイルショックを契機に市場は停滞し、D社も店舗の縮小を余儀なくされたのです。このような厳しい経営環境の中、G氏は自分の経営手腕に限界を感じ、後をH氏に託したのでした。H氏は、経営方針を料理の質の追究に転換するとともに、H氏が料理の質を担保できる店舗数(3店舗)に絞り込む決断をしたのです。この店舗の絞り込み=顧客の絞りこみ、さらに、高付加価値を提供できるメニューの絞り込みによって、業績は徐々に回復していき、この方針はバブルの環境においても変えることはありませんでした。

現社長のF氏も、イタリアで修業を積んだのですが、F氏は直接D社には入らず、日本のイタリアンレストランで修業を続けたのでした。そこで、F氏は、日本の食材を活かしたイタリア料理の可能性に気づいたといい、その後のメニュー開発の基礎となったといいます。そして日本のレストランでの修行を終えたF氏は10年前、D社に入社したのでした。リーマンショックの後遺症が残る厳しい経営環境でしたが、F氏の独創的なメニュー開発が評価を得て、D社は業績を伸ばしていったのです。そして、F氏が入社して、2年後、今までのD社にはない新しいメニューを提供する店舗として、4店舗目をオープンさせたのでした。しかし、新店舗の業績は、予測を下回る結果が続き、また新店舗をオープンしたころから、既存店舗の業績も前年を割るようになってきたのです。このような経営状態から、経営を立て直すべく、5年前に、H氏はF氏に社長を譲り、自らは会長として、シェフの育成に専念するようにしたのでした。

しかし、業績は回復せず、3年前、F社長が相談に来られたのです。

(F社長)
レストランDは、70年続くイタリアンレストランです。レストランDでは、先代の社長であるH会長の時代から、料理の品質にこだわり、固定客に支えられて成長してきました。そして、私は、H社長のこだわりに加え、もっと日本の食材をイタリア料理に活かしていきたいとメニュー開発に取り組んできました。私が、レストランDに入社したころは、リーマンショックの後遺症で厳しい経営環境でしたが、創業からの信用とあらたなメニュー開発が評価されて、大きな落ち込みもなく経営を続けることができました。
ところが、5年前に、もっとお客様に喜んでいただきたいと、創造的なメニューを提供する新規店舗を出店したのですが、この店舗が予定通りの売上をあげることができず、また、既存の店舗の売上も下がってきたのです。2年前に、私が社長を引き継いだのですが、業績を回復することができていません。
(コンサルA)
F社長は、業績悪化の原因をどのようにとらえていますか
(F社長)
新規店舗の売上が予定を下回っています。また、新規店舗の出店以降、既存店での売上も下降傾向にあります。やはり、お客様の要望にお応えするメニューが開発できていないことが原因ではないのかと考えています。一方で、メニュー開発は、例年以上に力を入れているつもりなので、メニュー開発だけではない、別の原因があるのではないかと考えています。
(コンサルA)
それでは、レストランDについて、もう少し、具体的なお話を聴かせてください。まずは、御社の創業からの歴史を教えていただけますか。

(中略)

(コンサルA)
レストランDの現状について教えてください。お店は、お客様から選ばれて成り立っています。レストランDがお客様から、選ばれてきた理由をどのように考えていますか。
(F社長)
会長が築き上げた「お客様との信頼関係」とレストランDにしかない「国産の食材を中心に据えた独創的なメニュー」だと考えています。
(コンサルA)
新規店舗において、予算が達成できていないことや、既存店舗において、売上が下がってきたということは、我々が考えているお客様から選ばれている理由が、お客様の要望や期待と乖離してきているのでしょう。一方で、選ばれている理由を創造しているシェフや店長の要望や期待とF社長の対応にも乖離ができているとは考えられませんか。
(F社長)
それは・・・。
(コンサルA)
一度、レストランDを訪問して、あらためて、売上が停滞している原因を探っていきましょう。

このようなご縁から、レストランDを訪問することになりました。訪問内容については、次回、ご報告します。

その2

~レストランDの事業の本質は何ですか~

レストランDの既存店舗(3店舗)と新規店舗を訪問した第一印象は、「活気がない」というものでした。活気のない店は、お客様から選ばれません。活気のない店では、食事をしても楽しくありません。楽しくないから、料理をおいしく感じないのです。

活気は、社員の「やりがい」から生まれます。そして、「やりがい」が生まれる背景として、お客様や仲間から認められることが重要な要素となります。D社の既存の店舗で食事をした時の会話です。

(コンサルA)
既存店および新規店の顧客層は、どのような構成になっていますか。
(F社長)
既存の店舗の客層は、それぞれの店によって多少の違いはありますが、メインの顧客層は、50歳代から60歳代のシニア層です。一方、新規店の客層は、20代から30代です。
(コンサルA)
新規店をオープンさせた5年前から、顧客層の傾向は変わっていませんか。特に、既存の店舗の客層はいかがですか。
(F社長)
店舗によってバラツキがありますが、メインの客層の来店頻度が減っているようです。
(コンサルB)
F社長は、その理由をどのようにとらえていらっしゃいますか。
(F社長)
メニューの鮮度が落ちているのではないかと、新しいメニュー開発に取り組んでいるのですが、なかなか成果に結び付きません。
(コンサルA)
メインの顧客層の来店頻度が落ちているのは、メニューの問題だけでしょうか。お店は、お客様が魅力を感じ、お客様に選ばれているから、来店していただけるのです。お客様は、D社の料理だけでなく、お店の雰囲気やサービスの良さで来店していただけているのではないでしょうか。
(コンサルB)
訪問した時、ホールの方の挨拶が杓子定規に感じました。また、料理が運ばれたとき、シェフが自信を持って、料理の説明をされているのか 正直不安になりました。今の雰囲気は、本来のD社のお店のサービスではないと思いました。
(F社長)
そうですか、気づきませんでした。
(コンサルA)
F社長は、H会長が育てていらっしゃるシェフの意見を聞いていますか。私は、シェフの対応を見ているとシェフのモチベーションが下がり、店全体のサービス水準が下がっているのではないかと危惧してしまいました。
(F社長)
いえ、シェフの育成は、会長の仕事と認識しています。
(コンサルA)
お店は、働く従業員さんの和で成り立っています。会社の責任者である社長として、シェフの意見も聞いて、お客様から選ばれる店舗づくりをすることが大切だと考えます。
(コンサルB)
F社長が、シェフの育成を会長の仕事と割り切ってしまうと、ますます、会長-シェフの徒弟関係が固定化してしまい、F社長の想いとの溝ができるのではないかと危惧します。
シェフの想いを聴く際には、F社長自身が「会社を良くしていきたい。そのために、シェフの気持ちを教えてほしい」と胸襟を開いて、想いを教えてもらう姿勢が大事です。

★新規店舗の問題については、あらためて報告します。

数日後、F社長が、弊社の事務所に来ました。F社長は、「業績が悪い原因が、自分にあるとコンサルタントから指摘されて、強い衝撃を受けました。業績が悪いのは、“自分の立ち居振る舞いが悪いのではないかと思い、シェフの想いを教えてもらいたい”と話を切り出しました」と話を始めたのです。

その結果、シェフからは、①自分は、H会長の技にあこがれてD社に入社した。H会長からは、ソースの作り方・料理の仕方だけでなく、料理の見せ方、料理の説明の仕方まで教えてもらっている。一方、②F社長の料理を追究する姿勢は尊敬するものの、まだ、基礎ができていない自分に対して、創作メニューを要求される。③自分としては、中途半端な姿勢で料理を作る日々が続いている。と声を詰まらせながら、訴えられたと話されました。
その時、F社長は、頭を岩にぶつけたような衝撃を受けたといいます。自分が、創作メニューを提案できたのは、イタリア料理の本質を追究しているH会長がいたから、安心して好きなレシピを会長にぶつけ、商品化することができたのです。

その後、F社長は、あらためてH会長とも相談しながら、「既存店におけるシェフが納得できる創作メニュー」の創造に取り組むことにしたのです。この取り組みは、F社長とH会長とのコミュニケーションの深化にもつながり、D社の創作メニューはあらたな価値を創造するようになりました。その結果、あらたなメニューに対して、シェフの説明の仕方が変わり、シェフの姿勢は、厨房だけでなく、ホールのメンバーにも伝わっていったのです。

その後、D社の既存店舗では、新商品メニューが開発される時期に、常連のお客様も招待して、グランドメニューに掲載する料理コンテストが開催されるようになったのです。これも、お店はお客様に選ばれているという認識のもと、F社長の「お客様との距離を縮めたい」という意志の表れでした。

その3

~お客様を見ていなかった~

レストランD社の新規店舗においても、第一印象は、「活気がない」というものでした。しかし、新規店舗で活気がない理由は、既存店舗でご紹介した理由とは少し違いました。

(コンサルA)
新規店舗のメインの顧客の動きはいかがですか。
(F社長)
顧客層としては、20代から30代で大きな変化はないのですが、新規店舗の場合、ランチのウエイトが大きく、ディナーの客数が伸び悩んでいます。ランチ客をディナー客に誘引することが課題と考えていますが、どのように対応すれば良いのか、なかなか糸口が見つけられずにいます。
(コンサルB)
F社長は、ランチ客がディナー客に移行しない原因をどのように考えていますか。対策の前に、原因を考えましょう。
(F社長)
ディナーの魅力をうまく伝えられていないのだと思います。ディナーの魅力をSNSで発信したり、また、初めての方でも利用しやすいようにクーポンを発行したり、いろいろと手を尽くしているのですが、成果に結びついていません。
(コンサルB)
ディナー客への誘引比率はどの程度でしょうか。
(F社長)
正確には、把握していませんが、20%前後ではないかと・・・。
(コンサルA)
メニューを拝見しましたが、ランチはパスタランチ等オーソドックスなメニューとなっていますが、ディナーのメニューは、名前や写真からではイメージしにくいメニューが多くないですか。
(F社長)
独創的なメニューで差別化を図ろうと考えたのです。
(コンサルA)
ベーシックなランチメニューに対して、独創的なディナーメニューというのは、お客様のニーズに合っているのでしょうか。ターゲットとされている20代から30代の方は、どれだけ、イタリア料理を食べた経験を持っていると思いますか。
(F社長)
ピザやパスタあるいはアヒージョを食べる程度の経験だと思います。
(コンサルA)
このお店のお客様には、F社長の考える独創性を受け入れる食の経験が不足しているのではないでしょうか。少し厳しい言い方をすると、私には、このお店がお客様に独創的なメニューを押し売りしているように感じられます。
(コンサルB)
私たちが感じた「活気のなさ」は、お客様のニーズとお店の価値提供のギャップにあるように感じています。お店のスタッフが、自信をもって、メニューを提供できていないのではないですか」。
(F社長)
実は、私の悩みは、「お店が提供している料理」と「お客様が食べたいと思う料理」との違和感にあるのです。正直、この店のコンセプトが見えなくなっているのです。独創的なメニューを提供できる店を目指せば目指すほど、お客様との距離が遠くなるような感覚を持つのです。お店の軸がしっかりしていないから、お店の価値がお客様に伝わらないのかもしれません。
(コンサルA)
悩みをお話していただき、ありがとうございます。ただ、F社長の悩みの答えは、お客様の中にしかないのです。胸襟を開いて、お客様の声を聴かれたらいかがでしょうか。

数日後、F社長が、弊社の事務所に「報告がある」といって来られました。「二人に、“独創的なメニューを押し売りしている”と言われたときは正直ムカッときた。しかし、新規店舗の業績が悪いことは事実として受け止め、お客様の声を素直に聞くことにした」との報告を受けました。

ディナーのメニューに対して、お客様の声を聴いた結果、「ランチは美味しい。ディナーも期待するけど、創作イタリアンとなると(普通のイタリア料理も知らないので)ハードルが高い」「創作イタリアンと言われるだけで、我々の知らない専門的な料理の印象を受ける」「創作イタリアンと言われると、ワインも含めて、想定しているディナーの価格より高く感じる」「創作という響きで、子供を連れていけるかどうか心配になる」等々、創作という言葉に対して、「違和感がある」との答えが返ってきたのです。お客様の違和感が、ランチからディナーへのギャップにつながっているとわかりました。お店の従業員も、そのことを肌で感じていたから、自信を持ってメニューを提供できなかったのでしょう。私(F社長)自身、創作イタリアンをもっとお客様目線で提供する工夫が足りなかったのです。

F社長は、「シェフとのヒアリング」「お客様の声」から、メニュー創りにおいて、もっとも大切にしないといけない「料理の基本を守ること」「お客様の要望・期待に応えること」に気づいたのです。特に、創作メニューが先代や自分の成功体験から、いつの間にか自分の唯我独尊で創られてきたことを猛省したのでした。
翌日、F社長は、従業員の前で、「今まで、お客様を見ていなかった。これから、お客様に安心して来てもらえる店づくりを目指す」と表明したうえで、「料理の基本を守ること」「お客様の要望・期待に応えること」を軸にメニュー創りをすることを誓ったのです。

それからのレストランD社は、あらためて「美味しい」とは何かを従業員全員で共有し、表現する取り組みを始めました。その結果、既存店舗も新規店舗においても、徐々に業績が改善していったのです。

しかし、店舗の業績が安定軌道に乗り始めた矢先に、コロナにより、経営環境が激変したのです。コロナ禍において、F社長とレストランD社がどのように対応したのかは、次回にご報告します。

その4

~我、今何をすべきか~

店舗の業績が安定軌道に乗り始めた矢先に、コロナにより、経営環境が激変しました。
緊急事態宣言によって、夜の営業が規制され、また、アルコールの提供もできなくなり、実質、ランチの売上のみとなったのです。今まで、安定したランチのお客様があったとはいえ、売上高は通常の半分にまで落ち込んでしまいました。
厳しい状況の中で、F社長から、あらためて相談がありました。

(F社長)
コロナによって、緊急事態宣言が発せられ、非常に厳しい経営状態となっています。業績も回復して、安定軌道に乗ってきたにも関わらず、売上高は今までの半分程度になりました。先々代から続けてきたレストランD社であり、なによりも、今まで贔屓にしていただいていたお客様がいらっしゃいます。さらに、本音で切磋琢磨して、D社を支えてきてくれた従業員がいます。このような環境の中でも、絶対にD社のお店と従業員を守らなければなりません。そのために、できることは何でもするというゼロベースの発想で、①あらたなメニューの開発、②テイクアウト、③ケータリング、④WEB販売、⑤異業種との連携・・・等、可能性を模索してきました。
(F社長)
一方で、レストランD社が大切にしている「基本を守る姿勢」は崩したくない、基本を守れなければ、コロナが収束した後、真っ先に選んでもらえるレストランになれないと確信しているからです。可能性を模索する中から、気づいたことは、「基本を守る姿勢」は、決して後ろ向きな、保守的な姿勢ではなく、攻めの姿勢につながることです。H会長から教えられてきた「基本を守るから、発展的なメニューが創造できる」という見識は、今こそ活きると考えています。
(コンサルA)
私にも、F社長の覚悟が痛いほど伝わってきます。コロナ禍をチャンスとして、あらたな事業領域を開拓しようと考えているわけですね。
(F社長)
そうです。そのために、新規店舗を改装して、テイクアウト・WEB販売・ケータリングを主体とする商品開発拠点・情報発信拠点とする構想を創りました。そこでは、今までお世話になってきた地域の生産者の方々とお客様と我々が交流できるレストランも併設します。
(F社長)
そこで、ご相談なのです。事業再構築補助金という制度の話を聞きました。今回の構想の中で、事業再構築補助金が活用できるのであれば、活用したいと考えています。また、活用できるのであれば、申請をする支援をお願いしたいのです。
(コンサルB)
あえて失礼な質問をしますが、F社長は、事業再構築補助金があるから、今、お話をしていただいた構想を実行しようとしていらっしゃるのではないですね。「レストランD社を残すために、あらたな構想を描いてきた、その中で、事業再構築補助金が活用できるのであれば活用したい」という認識と、受け止めてよろしいでしょうか。
(F社長)
当然、そうです。事業計画も私が作成するつもりです。私たちのレストランD社ですから。私の要望としては、事業計画を作成するために、従業員とのディスカッションに加わっていただきたいことと、申請する体裁について助言をいただきたいのです。
(コンサルB)
失礼な質問をお許しください。F社長の覚悟を踏まえた、事業再構築補助金の事業計画に対するお考えがよくわかりました。

このようにして、事業再構築補助金の事業計画という認識ではなく、あらたな事業領域を開拓するために経営を革新する事業計画創りがスタートしたのです。あらたな事業領域を開拓するために、①メニュー開発およびメニューの提供においては、基本を守りながら、瞬間冷凍機材の導入等あらたな設備を導入すること、②地域の生産者の方々と従業員、そしてお客様との双方向のコミュニケーションを重視すること、③あらたなコミュニケーション手段を活用して情報発信をすることを基本としました。

(コンサルA)
無事、事業再構築補助金は採択されました。
(F社長)
ありがとうございます。今回の事業計画の策定において、本当に厳しい環境を従業員と共有することができ、苦しい経営状態の中でも、従業員と新しい事業の可能性について話し合うことができました。
(F社長)
しかし、経営環境は待ってくれません。あらたな構想を、支援していただいた事業計画の内容の具現化に向けて、従業員と取り組みをスタートさせています。
(コンサルB)
そうですね。経営の革新は、まず、実行することが重要です。その指針が事業計画なのです。
(F社長)
事業計画が仮説であり、実行は仮説検証だと教えてくれたのは、コンサルタントの皆さんです。今は、経営の革新に向けて、仮説検証を地道に実行しています。仮説が違っていたら、取り組みを恐れず変えていく、従業員も思考と行動の自由度が高まりました。これからも、従業員とコミュニケーションを密にしながら、革新を展開していきます。

新しい事業に向けて、レストランÐ社は動きだしました。まだまだ、コロナ前の業績には戻りませんが、F社長は、生産者と従業員とお客様とのコミュニケーションを軸にした、あらたな事業領域の開拓に手ごたえを感じてきました。しかし、コンサルタントは、今後のレストランD社の成長を考えたとき、胆識する経営の軸が必要だと考えていました。
社長が気づいた経営の軸については、次回ご報告します。

その5

~ブレないレストラン創り~

飲食業から小売販売へ、新たな事業領域の開拓を進めていく中で、コンサルタントは、一つの危惧を認識していました。それは、事業領域が広がることによる、経営の非効率化です。飲食業と小売業の事業領域を融合化し、相乗効果を発揮するために、全社員の意識/行動の基準となる「経営の軸」を胆識する必要があったのです。

(コンサルA)
新たな事業領域の開拓が徐々に進んでいますね。F社長も手ごたえを感じていらっしゃるのではないでしょうか。
(F社長)
レストランⅮ社が生き残るために、社員が一生懸命に頑張ってくれています。その結果が、少しずつ現れてきています。
(コンサルA)
F社長のリーダーシップが成果に結びついていると感じます。
(コンサルB)
実は、成果が見え始めた今こそ、コンサルチームとしては、コロナ禍を見据えて、次の課題に取り組むべきだと考えています。新しい事業領域の開拓が進むにつれて、現状のまま放置すると、二つの事業を並行して取り組むことになります。すると、事業領域の広がりとともに、経営的には、非効率化が現れてきます。そこで、飲食業と小売業の事業領域を融合化し、相乗効果を発揮するために、全社員の意識/行動の基準となる「経営の軸」を胆識する必要があると考えているのです。
(F社長)
全社員の意識/行動の基準というと、「会社を潰さない」「料理の基本を守る」「コロナ禍が収まったときに、最初に指名してもらえる店になる」というスローガンではダメなのでしょうか。
(コンサルA)
今、提示してもらったスローガンは、飲食業と小売業を統合した、スローガンとなっているでしょうか。私には、「会社を潰さない⇒レストランⅮ社全体の領域のスローガン」「料理の基本を守る⇒飲食業の領域のスローガン」「コロナが収まったときに、最初に指名してもらえる⇒飲食業の領域のスローガン」とスローガンの整理ができていないと認識しています。コロナ禍がどのような形で終息するかどうか、予断を許さない状況の中で、我々は、飲食業と小売業の相乗効果を図る「経営の軸」を明確にしなければなりません。
(F社長)
確かに、今までは新規事業を軌道に乗せることばかり考えていて、相乗効果については、意識はしていたものの十分に考えていなかった。
(コンサルB)
今こそ、レストランD社がどのような企業を目指すのか、そのとき、飲食業と小売業にとどまらず新規事業との位置づけがどうなるのか、さらに、将来の新しいレストランD社と顧客との関係や農家さんを含めた仕入先/協力関係先との関係がどうなるのか等、レストランD社の目指すべき方向性や判断基準を「経営の軸」として明確にする必要があるのです。あらためて、社員の皆さんと話し合われてはいかがでしょうか。
(F社長)
コンサルの言いたいことは、「レストランD社の事業全体を、あらためて設計するべきだ」ということですか。
(コンサルA)
そうです。今までは、コロナ禍であっても、会社を潰さないという思考で、新たな事業に取り組んでこられたと思います。そのような部分的な発想ではなく、「コロナ禍をチャンスととらえて、どのようにしてレストランD社の体質を革新していくのか」というポジティブな発想で、全体最適を考えてもらいたいのです。レストランD社の方向性、事業コンセプトから見直して、成長するための「会社の軸」を導き出してほしいのです。
(コンサルB)
必要であれば、社名についても見直す必要があるかもしれません。
(F社長)
この議論は、社員に夢を提供することになりますね。社員を巻き込みながら、Ⅾ社の幹部と一緒に創り上げていきます。

(中略)

このようにして、レストランD社では、「経営の軸創り」に取り組みました。議論の場においては、F社長から「[顧客目線][社員目線][関係先目線]で、我が社の本質的な価値を見える化しよう」という提案があり、「レストランとは、どのような存在か」「その中で、我が社は、どのような価値を提供するのか」、「メニュー開発は、何のためにおこなうのか」「その中で、我が社のメニュー開発はどうあるべきなのか」・・・等、幹部社員の頭から湯気がでるような議論が展開されたのです。

議論が展開されるに従って、F社長から、次のような発言が繰り返されるようになりました。

(F社長)
我が社は、何のためにレストランをやっているのか、その中でもイタリアンレストランをやっているのか。我が社におけるメニュー開発はどうあるべきなのか。
我が社における[顧客とは][社員とは][仕入先をはじめ協力会社とは]どのような存在なのか。
我が社の本当の財産は何なのか。
そして、我が社は何をしたいのか・・・。
この問いに対する答えが重要だと認識している。
(F社長)
既存店舗の革新の時に第一の覚悟、新規店舗の革新の時に第二の覚悟があった。今回は、その時以上に、事業コンセプトに基づく第三の覚悟が求められている。
(F社長)
コロナ禍における市場の変化は、まだまだ予断を許さない。しかし、コロナ禍は、自分たちに新たな覚悟をあたえてくれた。その結果、社員一人ひとりが、外部環境の激変にも耐えうる会社を創りあげてくれている。

最後に、レストランD社の礎を築いたH会長から、

(H会長)
自分がワンマンで経営をしていたら、我が社は、とっくの昔に倒産していただろう。F社長だからこそ、新しい会社に革新できたのだと思う。既存店舗の革新、新規店舗の革新を通じて、社員との信頼関係を構築してきたことが、コロナ禍においても、会社を革新できた原動力だと思う。

このような言葉を聴くことができたことが、非常に印象的でした。

今回のコンサルティング物語は、これで終了します。次回からは、「価格決定が、企業体質を革新する」を掲載します。