コンサルティング物語

受注案件を管理する

EME「コンサルティング物語」は、コンサルティングの現場を物語風にアレンジしたものです。
コンサルタントの役割を身近に感じて頂けるように、EMEの新しいチャレンジです。

 受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる−


その1

〜 どのようにしたら、経営を安定させることができるのでしょうか 〜

コンサルティング物語

注:本物語では、企業側から見た契約行為を受注と表現します

請負とは、「当事者の一方(請負人)が引き受けた仕事を完成し,他方(注文者)がこれに対して報酬を支払うべきことを内容とする契約(民法632〜642条)[広辞苑他]」のこと。請負の例として、土木・建築に関する建設工事契約、造船契約、工場設備・プラント類の建設契約等がありますが、我々のような士業の契約(例えば、弁護士の「訴訟をやり遂げる依頼」や中小企業診断士の「経営体質改善をやり遂げる支援依頼」)も請負契約なのです。

そして、請負を生業としている事業体を、請負業と呼びます。
 請負業の一般的な特徴は、
  契約時点では、成果物がない。
  契約と売上の間にタイムラグがある。
  案件毎にオーダーメイドである(成果物をストックすることはできない)。
と言われています。

今回は、印刷業のM社のL社長から、「将来の売上が読めず、経営が安定しない。どのようにしたら、経営を安定させることができるのか」という相談を受けた事例です。
印刷業のM社は、創業50年、L社長は10年前に創業者である父親(N会長)から経営を引き継いだ2代目社長です。N会長は、製版会社から独立、デジタル化の波にも適応しながら、公共団体や大学等の公的機関との太いパイプを構築してきました。

しかし、公的機関の予算が削減される中、印刷物の案件も減少していき、競合他社との価格競争も激しくなる一方でした。


L社長: 公的機関中心に、仕事を受注してきましたが、公的機関の印刷物が減少する中、競争環境は厳しく、収益を上げられなくなってきました。このような状況から脱皮するために、民間企業からの受注を増やそうと、私が陣頭指揮をして、営業の強化を図ってきたつもりです。しかし、相変わらず、公的機関からの受注、入札による受注のウエイトが高く、数ヶ月先の売上高、資金繰りが読めない状態が続いています。今の経営は、その日暮らしの経営と同じです。どのようにすれば、経営を安定させることができるのでしょうか。
コンサル: 印刷会社さんも、我々経営コンサルタントと同様、請負業という事業形態です。請負業とは、発注者から依頼を受けた業務を遂行して納品する形態です。請負業の経営が安定する重要成功要因は、発注者が依頼したいと考える案件を、我が社が確実に受注することです。受注の安定なくして、売上や資金繰りの安定はないのです。言い換えると、受注するべき案件を管理することが重要なのです。
L社長:受注案件を管理するということは、どういうことですか。
コンサル: 受注は、「意思決定権者」と「品質」「価格(支払条件を含む)」「納期」について、合意した時に完結します(契約となります)。そして、案件は、ある日突然に受注に結び付くのではなく、受注するまでに、いくつかのステップを経て、受注に結び付くのです。受注を管理するとは、受注までのステップを設計するとともに、ステップを一段一段駆け上がるための営業活動を明確にして、受注に向けて、効率的にステップアップを図ろうというものです。
コンサル: さらに、受注に向けた案件の各ステップを受注確率と連動させることによって、たとえば、第三ステップの案件は、受注確率を50%とすることによって、受注案件に対して、受注確率に基づくランク付けすることができます。従って、受注案件を管理するとは、受注確率の視点からは、案件をランクアップすることに繋がります。
L社長: まだ、良く呑み込めていないが、受注を管理するとは、案件をステップアップあるいはランクアップするために、営業マンの活動を管理することですか。
コンサル: L社長のおっしゃるとおりです。受注案件を管理するとは、受注までのプロセスを管理することです。
コンサル: さらに、受注確率を正しく測定することによって、当月だけでなく、次月、次次月、(理屈の上では、将来の月別)契約高、売上高さらには利益額を予測することができます。
L社長: 将来の契約高、売上高・利益額を予測できるようになるのか・・・。それができるようになると、その日暮らしの経営から脱却することができる。
コンサル: 受注確率を設定するということは、将来の案件の価値を現在価値に換算して評価するということです。従って、次月、次次月の契約高予測が、目標を下回る場合、打つ手は2つです。ランクアップを確実に実現するか、新しい案件を発掘するか、その2点しかありません。そのために、営業部門として、何をするべきか がポイントになります。
L社長: まだ、案件管理のことを十分呑み込めていないが、受注を管理するということは、私をはじめ、営業マンの活動を管理して、レベルアップする、そして、着実に契約高、売上高を実現していく考え方と取り組みだということは理解しました。まずは、取り組んでみましょう。

こうして、M社において、受注案件を管理する取り組みが始まりました。次回から、M社における、受注案件を管理する仕組み創りと取り組みをご報告します。

* *



 

コンサルティング物語

受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる− その2

〜営業マンの不安を取り除く〜

早速、L社長は、営業マンを集めて、コンサルタントと一緒に、受注案件を管理する目的・意義を話しました。そして、受注見込案件を受注確率とともに、報告するように求めたのです。しかし、3ヶ月しても、営業マンからは、受注確率100%の案件しか報告されてきません。


L社長: 案件管理の仕組みを導入してから3ヶ月を経過しましたが、営業マンからは、入札採用の案件、受注確率100%の案件しか報告されていません。これでは、その日暮らし、結果オーライの今までの状況と、何も変わっていません。
自分が営業していると、受注できるかどうかは別として、目につく案件が目白押しです。なぜ、我が社の営業マンには、それが見えないのでしょうか。
コンサル: どうして、受注見込案件を報告してこないのでしょうか。社長自身に心当たりはありませんか。
L社長:私なりに、営業マンに、自由に営業活動をさせているつもりです。受注見込案件を報告してもらわなければ、受注に向けてアドバイスのしようもない。
コンサル: そうですね。社長の想いも、良く分かります。しかし、報告してこないという現状を考えると、何か営業マンなりの理由があるのではないでしょうか。一度、私に、営業マンに対して、ヒアリングをさせていただけませんか。
L社長: ぜひ、お願いしたい。
コンサルタントはL社長と相談、営業マンに対して、受注案件管理の導入への捉え方について、ヒアリングを始めました。
営業O氏: 私の売上高の90%が公共機関で、入札です。案件管理なんて意味がないです。案件管理するよりも、コストを下げて、入札に勝てる仕組みを構築するべきです。私の売上が下がっているのは、会社の取り組みの問題です。
営業P氏: 受注見込案件をすべて報告したら、失注した時に、社長から何を言われるか 分かりません。受注確率なんて関係ないです。社長の見方は、失注は失注なのです。社長は、自分の失注を棚においてでも、営業マンの失注を追求します。ランクの低い案件の失注までも追求されるのであれば、報告しない方がましです。
営業Q氏: 社長は、業績にしか関心がない。私が報告している数字は、ほぼ受注が確定している案件だけです。それもすべての案件ではありません。受注が確定しているといっても、日常的に、納期が遅れたり、仕様が変更になったりすることがあります。社長は、このような場合でも、数字でしか評価しません。見込み違いの案件があっても、社長に報告できるように、隠し玉を持っておく必要があるのです。
営業R氏: 社長の営業と我々の営業は違います。社長は、オーナーだからすぐに結論を出せますが、我々は、そのようにはいきません。日々、工務や製造の現場と調整しながら、価格と納期を交渉しています。社長のように、何でも自分の都合の良いように決められれば楽ですけど、現場はそのために混乱していますし、社長のオーダーのために、我々の校正・製版・印刷・製本が後回しになるのです。
(以下略)

コンサルタントは、社長と営業マンとの認識ギャップを解消しなければ、今回の取り組みが絵に描いた餅になってしまうと強い危機感を持ちました。
コンサル: あらためてお聴きしますが、L社長は、どのような会社に変えていきたいですか。
L社長: 業績が安定した企業にしたい。先が見える企業にしたい。
コンサル: 業績が安定したあと、どのような企業に変革していきたいですか。
L社長: ・・・
コンサル: 営業マンは、今まで、結果しか求めてこなかった社長の姿勢から、今回の案件管理の仕組みに対して、その目的がわからず、自分たちに不利益になると否定的な捉え方をしています。社長が、自分がやりたい「あるべき姿」を見せ、本気で、営業マンと一緒に取り組んでいく姿勢を見せなければ、営業マンは、見込案件をオープンにしないでしょう。
L社長: 自分が率先垂範するだけではダメということですか。
コンサル: 率先垂範して、あらたな領域にチャレンジしてくことも、社長の大切な役割です。しかし、率先垂範だけでは、その目的がわからず、社員は右往左往してしまいます。
もう一度、案件管理をすることによって実現したい姿、そのための案件管理の役割を整理しましょう。

このようにして、L社長は、もう一度、社員に対して、社員の目線から、社長の夢を語り、夢を実現するために、案件管理に取り組んでいきたいと話したのです。

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受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる− その3

〜見込案件をオープンにする〜

L社長は、コンサルタント支援を受けながら、「経営者として本当に何がしたいのか」、そのために「会社の仕組みをどのように変えたいのか」「どのような社員になってほしいのか」、そして、「社員とともに喜びを分かち合いたいこと」を整理して、社員に伝えたのです。


L社長: 私が受注案件を管理する仕組みを導入しようと考えたのは、「将来の受注高、売上高が読める会社になって、みんなが安心して働ける業績の安定した会社を創りたい」と考えたからです。しかし、業績の安定した会社を創るためには、「取引先が我々の仕事に満足して、また、発注したい」と思ってもらわなければなりません。そして、取引先に満足してもらうためには、コストも重要ですが、「コストだけではなく、納期遵守や品質重視」が求められます。
L社長:納期遵守や品質重視を実現していくためには、「生産現場に“いつ”“どのような案件”が、“どれだけのボリューム”で入ってくるか、案件情報が入っていること」が重要です。私も、いままで、生産現場の状況を把握せずに、生産を依頼してきましたが、それも、生産現場の状況が十分に把握できる環境になかったからだと反省しています。生産現場に案件情報が入るためには、「見込み案件がオープンになっている」必要があります。生産現場に、見込み案件情報が入ることによって、計画的な生産が可能となり、ミスが減るだけでなく、コストも下がるのです。
L社長: 一方、生産現場に見込み案件情報を入れるということは、営業において、「見込み案件の受注精度」が求められることです。見込み案件をオープンにしても、失注を繰り返していたら、営業はオオカミ少年となってしまいます。今まで営業は、受注案件を管理することに対して、受注高や売上高を管理するだけの仕組みととらえていたかもしれませんが、受注案件を管理することの本質は、「生産現場に良い仕事をしてもらうために、見込み案件の受注精度を高めること」なのです。
L社長: しかし、受注案件を管理することは、我々、特に営業マンにとって初めての経験です。最初からうまくいくとは思いません。まずは、一定の見込み金額の案件、生産に技術を要する案件から、オープンにしていきましょう。また、ABCと案件ごとにランクをつけますが、まずは、難しく考えないで、自分が感じている受注確率から、ABCといったランクをつけていきましょう。
L社長: 今まで、私は、受注案件にばかり目がいっていました。しかし、先日、支援を受けているコンサルタントに、「失注(失敗)から学ぶことが重要であり、失注がオープンになっていない会社は成長しない」と厳しい指摘を受けました。また、「案件をランクアップさせていく場面に、営業マンへの教育がある」とも言われました。私も目が覚めた思いです。私も失注から学ぶようにします。営業の現場にも足を運びます。だから、営業マンも安心して、案件をオープンにしてください。
L社長: 最後に、受注案件を管理することは、受注高や売上高の読める会社、業績の良い会社を創ることが目的ではありません。業績の良い会社を創り、「皆さんの努力や貢献に対して、報いることのできる会社を創る」ことです。一緒に、皆さんの給与水準を高めることに加えて、M社を働き甲斐のある会社にしていきましょう。
(この後、再度、受注案件管理の説明がおこなわれましたが省略します)
コンサル: とても、熱のこもった、そして、わかりやすい説明でした。
L社長: 「受注案件管理を、何のために導入するのか」を何度も何度も考えて、やっと、受注案件を管理する意義がわかりました。実は、説明をしながら、私も、重要な見込み案件をすべてオープンにしていないことに気付いたのです。私自身が、「受注案件を管理すること」に対して、正面から向き合っていませんでした。私も含めて、最初から出直しです。
コンサル: 案件をオープンにして管理していくということは、社長自身が、今までの「業績中心のリーダーシップスタイルから、プロセス中心のリーダーシップスタイル」に変えていくことを意味します。その覚悟は大丈夫ですか。
L社長: 大丈夫です。私から率先して失敗から学ぶと約束しましたから(笑)。

このようにして、重要な案件から、M社の受注案件管理が再スタートしました。
トップ自らが、「自分のリーダーシップスタイルを変えようと努力する姿勢」を示したこと(すぐには変わりませんが、努力を社員が認めるようになりました)、受注案件管理の意義として、「良い仕事をするために、見込み案件情報を生産現場に提供する」ことが、営業マンに浸透するに従って、案件のオープン化、ランクの記入が進んでいきました。

次のテーマは、ABCのランクの定義をおこない、ランクアップの場面を営業の教育現場にしていく取り組みです。その内容は、次回にご報告します。

 

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コンサルティング物語

受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる− その4

〜受注を科学する〜

社長の率先垂範により、受注案件がオープンになり、受注案件管理の仕組みが定着してきました。そして、営業会議の内容も、社長による業績の未達の責任追及や失注の原因追及から、「どのようにしたら失注が防げたか」という失注への再発防止や「どのようにしたら受注に向けてランクを上げることができるか」という業績達成に向けた問題解決の内容が話し合われるようになりました。反面、社長の目からは、受注の精度、ランクアップのスピードという観点において、物足りなさを感じるようになっていました。


L社長: 営業マンは受注案件をオープンにするようになりました。また、営業マンが受注ランクを毎週見直すことにより、案件に正面から向き合うようになりました。しかし、何か物足りなさを感じています。受注ランクが一向にあがらない案件や失注してしまう案件が数多くあります。また、営業マンの中には、どのようにして案件のランクを上げていけばよいのか、具体的な取り組みに悩んでいる営業マンもいます。営業マンが発掘した案件を着実に受注に結び付ける方法はないものでしょうか。
コンサル:社長は、「受注できる」ということは、どのような条件がそろった時だと思いますか。
L社長: 顧客から注文をいただけたときではないのか。
コンサル: では、どのような条件がそろった時に、顧客からご注文をいただけるのでしょうか。
L社長: ・・・。
コンサル: 私は、次のように考えています。受注は、「顧客の[意思決定権者]と[価格]および[品質][納期]について、合意した時に成立する」、そして、その結果、顧客から注文がいただけるのです。
L社長: なるほど、そうかもしれない。
コンサル: そして、発掘した案件が、ある日突然、受注に結び付くことは、稀有なことです。通常は、先ほどお話しした[意思決定権者]、[価格]、[品質]、[納期]について、合意に向けたステップを踏むのです。
L社長: どうも、ピンときません。
コンサル: たとえば、いつまでもランクアップできない案件、そして、いつの間にか失注している案件を調べると、その原因として、営業マンが「[意思決定権者]に会えていないことに起因する」ような事例はありませんか。
L社長: 確かに、そのような失注は数多くみられます。
コンサル: 良い提案ができていても、面談が担当者どまり、[意思決定権者]と会えていないのであれば、受注には結び付きません。もし、一人の営業マンの案件に、このような傾向が見られたら、社長ならば、どのように対応しますか?
L社長: 有無を言わず、私を連れていけと言いますね。
コンサル: そうです、それが対策です。しかし、ランクアップしない原因がどこにあるのかがわからなければ、対応のしようがありません。そこで、ランクアップしない原因を見える化するために、[面談者]、[価格]、[品質]、[納期]について、受注に向けたステップを整理するのです。
たとえば、[意思決定権者]と合意するまでの[面談者]に関するステップを仮説的に整理すると
ステップ1 担当者と提案内容について面談している
ステップ2 担当者と提案内容について合意している
ステップ3 オピニオンリーダー(意思決定権者に影響を与えるひと)と提案
      内容について合意している
ステップ4 意思決定権者と提案内容について面談している
ステップ5 意思決定権者と提案内容について合意している
このようなステップが考えられるでしょう。
L社長: 我が社の営業マンは、ステップ4にあがれない営業マンばかりではないだろうか。だから、案件を受注できないのです。
コンサル: 受注に至らない原因を、[面談者]の要因だけに決めつけるのは危険です。なぜならば、[価格]、[品質]、[納期]についても、同様なステップがあるのです。そして、[面談者]、[価格]、[品質]、[納期]のすべての項目について、ステップ5、つまり、[意思決定権者]と合意できたときに受注となるのです。
L社長: なるほど、「なぜ、受注できないのか」と叱咤するだけでは駄目だということですね。受注できない原因、ランクアップできない原因を見つけて、その原因に対して手を打つことが重要だということですね。
コンサル: その通りです。では、さっそく、[面談者]、[価格]、[品質]、[納期]について、我が社のステップを検討しましょう。そのうえで、案件のABCランクの定義を明確にするとともに、ランクアップできない原因(ステップアップできない原因)を整理して、対策を検討していきましょう。

このようにして、ステップを具体化することによって、M社独自の案件評価表が作成され、ランクアップするための対策が整理されたのです。そして、案件評価表およびランクアップ対策一覧表は、営業マンをOJTで教えるツールへと進化したのです。

次にM社では、経営を安定させるために、案件のランクを使って、業績の先行管理・工場の製造〜納品までのプロセス管理に取り組みました。次回は、M社における業績の先行管理への取り組み、受注案件管理に基づく工場のプロセス管理への取り組みについてご報告します。

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コンサルティング物語

受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる− その5

〜受注と納品を先行管理する〜

M社では、受注確率から、ABCランクの定義を、Kランク:受注済み、Aランク:受注確率90%、Bランク:受注確率70%、Cランク:受注確率 50%、Dランク:受注確率30%、Eランク:評価外、と決めました。さらに、営業マンを巻き込んで、案件評価表に基づく案件の状態(案件の評価)をガイドラインとして、受注確率の定義も作成されたのです。
そのうえで、M社では、案件の評価に基づく「受注と納品を先行管理する仕組みづくり」に着手しました。

 


コンサル: 今回、設定した受注確率は、受注案件の現在価値を表すものです。つまり、次月受注予定で、受注見込金額 1,000 千円の案件の現在の受注確率が 70% とすると、その案件の現在価値は、700 千円と考えるのです。次月受注予定案件の換算金額(現在価値)の合計は、次月の受注金額予測になります。受注金額予測が受注金額目標に届かない場合、受注対策を検討しなければなりません。
L社長:次月の受注金額予測が出せるということは、受注案件および受注見込金額が明確になっていて、受注確率を設定できれば、2ヶ月後、3ヶ月後の受注金額予測が読めるということになるのですか。
コンサル: 理屈の上では、半年後、1年後の受注金額予測も読めます。
また、納品期日が推定できれば、売上金額予測も算出できます。
しかし、前にも述べましたが、請負企業は、受注なくして売上はありえないのです。受注案件をいかに管理するかが、請負企業の生命線です。したがって、受注予測金額を把握することが、非常に重要になるのです。
L社長: 受注予測金額が読めたとしても、有効な受注対策が打てないと意味がありません。受注対策をどのように考えたらよいのですか。
コンサル: 受注対策の基本は、第一に「ランクアップに向けた商談力の強化」、第二に、「新規案件を発掘する発掘力の強化」です。
L社長: 「商談力の強化」といわれますが、具体的には、どのような取り組みをすればよいのでしょうか。
コンサル: 「商談力を強化する」ためには、前回、検討した「案件評価表」、そして、対策の進捗管理をする「ランクアップ対策一覧表」を活用します。
ランクアップするために、まず、上司は、営業マンごと、案件ごとに、行動を観察あるいはヒアリングを通じて、「案件評価表」のどこのステップを突破できないのか、営業マンの課題を把握します。そして、上司は、営業マンの課題に応じて、OJT(仕事を通じた訓練)による教育、フォローをおこなうのです。さらに、会社としても、営業マンを支援するツール・マニュアルを作成すること、また、外部の機関を活用した能力開発や疑似体験の機会を提供することも重要です。
L社長: 我が社では、リーダーといっても、プレーヤーであり、そのようなことができるリーダーはいない。
コンサル さらに、リーダーは、営業マンが提出した「ランクアップ対策一覧表」の進捗状況を把握して、さらに、OJTによる教育・フォローを積み重ねていかなければなりません。
L社長: 我が社には、ますます、そのようなことができるリーダーはいない。
コンサル: 我が社の現状は、L社長のおっしゃる通りでしょう。しかし、この取り組みが実現できなければ、M社の将来はありません。
L社長 では、「発掘力の強化」は、どのような取り組みをするのですか。
コンサル: ポイントは二つです。一つは、既存得意先で、今までに受注できていない案件・他社に流れている案件を発掘すること、もう一つは、新規得意先を開拓することです。既存得意先に対しては、得意先のビジネスを理解するとともに、こちらから、案件について、積極的にヒアリングしていく能力が求められます。得意先からの仕事待ちの営業では、新規案件を発掘することはできません。新規得意先を開拓するためには、やみくもに飛び込み営業をしても、非常に効率が悪く、案件発掘には結び付きません。会社として、あるいは営業部門として、どのような得意先を開拓していくのか、戦略をたて、営業マンに指示していく必要があります。
L社長: まずは、会社が新規開拓の方向性を示せ ということですか。
コンサル: そうです。そのうえで、会社の方針に従って、あらたな取り組みをしている社員、成長した社員を「ほめる」「認める」「評価する」取り組みも重要です。何度も申し上げますが、制度を作っただけでは、社員は動きません。その制度を導入することに対して、社員がメリットを認識することによって、社員は動くのです。
L社長: 否定的なことを言うわけではないが、コンサルタントが言われたことをリーダーができるようになるまで、何年かかるのでしょうか。
コンサル: おっしゃる通りです。まず、リーダー教育を優先させていかなければなりません。しかし、リーダー教育についても、一朝一夕で成果に結びつけられるリーダーが育つわけではありません。
L社長: では、どうすればよいのでしょうか。
コンサル: リーダーが育つまでは、社長が営業部長を兼務して、今まで話したことを社長自らが実行するしかありません。そして、営業マンに対するヒアリング・ミーティング・OJTの場に、リーダーを同席させ、社長がリーダーに対してOJTをおこなっていくのです。

(以下略)

このようにして、受注案件管理への取り組みが、受注と納品を先行管理する日常の業務としてスタートしました。当初は、プレーヤーとしての業務に加えられた「受注案件を管理する業務」に、違和感を持っていたリーダーも、営業マンが育つことにより、「受注案件を管理する業務」をリーダー本来の役割として、認識を持つようになっていきました。さらに、受注案件管理への取り組みは、工場の製造〜納品までの工程の効率化に結び付き、組織力の強化につながっていったのです。

次回は、製造工程の変化、部門間のコミュニケーションの変化等、組織力の強化に結び付いた変化について、ご報告します。

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コンサルティング物語

受注案件を管理する −請負業の経営を安定させる− その6

〜組織力を高める〜

社長が方針を発表し、あらためて受注案件管理をスタートしてから、6ヶ月が経過しました。当初、社長が営業部長を兼任してきましたが、先月、リーダーとして育成してきた営業マンR氏を、正式に営業マネージャーとして任命、実質的に受注案件管理を推進する責任者としました。その結果、受注案件管理の精度があがるにしたがって、受注金額がアップするとともに、工場の生産性が向上していったのです。業績が改善しはじめた背景として、営業-生産連絡会議における検討内容の質の向上がありました。

 


コンサル: あらためて受注案件管理をスタートしてから、6ヶ月が経過しました。業績も上向いてきましたが、社内の変化はいかがですか。
L社長:リーダーとして育成してきた営業マンRを、先月、正式に営業マネージャーとして任命しました。今月から、営業ミーティングにおいて、営業マンに対する、案件の進捗状況についてのヒアリング・OJTを主体的に担当してもらっています。私がサブ・リーダーです(笑)。
コンサル: 営業と生産との関係はいかがですか。
L社長: 受注案件の進捗状況が「見える化」されたことにより、工場の生産性が飛躍的に向上してきました。
コンサル: 工場の生産性が飛躍的に向上してきた要因を具体的に教えてもらえませんか。
L社長: 今までは、工場に、いつ、どのような案件が受注されるのか情報が入ってこなかったので、受注があってから、個別に生産計画を設計する状態でした。それが、工場に、受注予測情報が入ってくるようになったので、事前に生産計画を設計できるようになったのです。当然、生産計画の精度があがったことにより、生産工程におけるムリ・ムダ・ムラが減少するだけでなく、生産能力が向上するとともに、ムダな紙の仕入れも減少しました。紙の在庫が、20%減少しています。
コンサル: その結果が、業績に反映されている訳ですね。
L社長: 一番の変化は、営業-生産連絡会議の内容です。今までは、営業マン全員と工務のS氏・工場長のT氏が参加して会議をしていました。営業と生産のコミュニケーションを良くして、工場の生産性を高める目的で始められた会議でしたが、営業からは、ほぼ確定した受注案件の情報、生産が困難と思われる案件の情報しか提供されませんでした。反面、営業から報告される情報の多くは、クレームの情報であり、工場に改善を申し入れる内容が主体だったのです。一方、生産側は、クレームの原因が、情報を流さない営業にあるとの主張の一点張りで、同じ会社でありながら、営業と生産は犬猿の仲の状態でした。
コンサル その営業-生産連絡会議がどのように変化したのですか。
L社長: 営業が積極的に受注案件の進捗情報を開示したことにより、生産側から、営業に対して、不満をいう口実がなくなったのです。もちろん、当初は、営業の受注案件の進捗情報の精度が低く、生産側の不信感は払しょくされていませんでしたが、進捗情報の精度があがるにしたがって、生産側の不信感が解消されていったのです。今では、工務のS氏・工場長のT氏から、積極的に案件の内容を聞き出す姿勢がみられるようになり、納期の安定、クレームの撲滅につながっています。特に、クレーム件数の減少が顕著です。
コンサル: 納期の安定・クレームの撲滅は、顧客との信頼関係に直結する成果ですね。
L社長 その通りです。今、工場長が中心となって、工場の生産プロセスの見直しに着手しています。案件ごとに、工場の進捗状況を「見える化」して、前工程に情報提供するとともに、営業からの進捗問い合わせに即答できるように取り組んでいます。工場長は、営業の進捗管理に負けられないと言っています。
コンサル: 相当な意識改革ですね。
L社長: 意識改革といえば、営業の意識改革も進んでいます。今、新任のRマネージャーを中心に、受注案件の失注原因、ランクアップできない原因を分析する取り組みを始めています。失注原因やランクアップできない原因を「見える化」して、成功体験だけでなく、失敗体験も共有しようとしています。
コンサル: 失敗体験をオープンにすることは、以前の営業ヒアリングの内容からすると、営業マンにとっては、相当勇気のいることではないのですか。
L社長: 「失敗を認める」ということは、受注案件管理を始めるにあったって、コンサルタントから、成功するための重要な要因として、指摘されてきたのですが、彼らの動きをみて、やっと納得することができました。今は、営業マンに対してだけでなく、全社員に対して、「失敗した数だけ人は成長する」と言っています。
コンサル: 一番、意識改革したのはL社長ではないですか(笑)。
L社長: そうかもしれません。今では、失敗を恐れずチャレンジする、失敗をオープンにして失敗から学ぶ、チャレンジする企業文化を創造したいと考えています。
コンサル: 「失敗を認める」方向に価値観の舵を切った、L社長は、最大のチャレンジャーだったのですね。
L社長:

まだまだ、変革は始まったばかりですが、Rマネージャーの動き、S工務・T工場長の動きを見ていると、新しいM社に変革できる手ごたえ、組織として成長していける手ごたえを感じています。

(以下略)
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新しい仕組みや制度を導入することは、新しい企業文化(チャレンジする企業文化)を創造することにつなげることなのです。M社の変革は始まったばかりですが、新しい企業文化が醸成されつつあるM社において、変革が着実に進んでいくと確信しています。

今回で、「受注案件を管理する」コンサルティング物語を終わります。


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